ちょっと映画の話


    東京に住んでいたときには、今のようにネットもなかったし、映画の情報は、決まって毎週発売されるエンタメ情報雑誌だった。多分、エンタメという言葉もなかったかもしれない。ちょうどアルモドバルの『神経ぎりぎり』の映画を見た後、他にも彼の映画が上映されていないかと、雑誌の索引でアルモドバルを探した ところ、一館だけ上映していた。東京新橋の映画館。山手線のガード下の小さな映画館で、400円で二本だてだったけれど、アルモドバルの映画だけが目的だったので、その上映時間の10分前ぐらいに到着し、窓口にいた女性に400円を払って映画館のホールに入った。観客は45人だっただろうか。入って座るまでその45人の視線を感じて、変だな、と思いながらも、前から二番目ぐらいの誰もいない列席に座って、終わりかかっている一本目の映画の場面を見たときに、あの驚きか または奇妙なものをみる視線がなんだったのかを悟った。ⅹ劇場だった。生まれてはじめて入ったⅹ館だったし、時をして独りで出掛けた時だった。友達が行きたいというかどうかは別にして、知ってたら、友達と来たのになあ、と思いながら、自分のうっかり加減にもほどがあるけれど、異常事態が起こらぬ限り動かないと決めて映画を見た。ⅹ映画への偏見だろうか、でも見終わった後に、ⅹ映画には思えなかった。
   先日のこと、日本の映画館についてちょこっと話す機会があって、それほど詳しくはないけど、大まかに話した。全国ロードショー館のほかにも、クラシック 映画やマニア好みの映画を上映する中・小の映画館があり、全体的にはハリウッド映画がスペインと同様に多いけれど、ヨーロッパの映画や、スペインの映画監 督の映画も上映していることなんかを話した。アルモドバルの他に、ビクトール・エリセだとか、カルロス・サウラやブニュエルの映画も東京で見た。実際に東 京では見てないけれど、クエルダだとか、トゥルエバとか、アメナバル、イサベル・コイセッ(コイシェあるいはコシェー)の作品も上映されていることも聞いていたし、そのほか名前を挙げたらこんなものはほんの一部で、ウィキペディアによれば、77作ものスペイン映画が、過去に日本で上映されたそうだ。
   スペインの映画館では、外国語作品は吹き替え上映が主流で、オリジナル-サブタイトル上映の映画館には限りがある。日本と同様にテレビでも吹き替えが主 流で、そんな環境の背景もあり、吹き替えの俳優の声の演技が巧い。翻訳にしても日本語と英語の関係よりも、スペイン語と英語の関係の方が、細かい文化が 違っても言語が近いから、表現などがもっと自然に感じられるのかもしれない。何でも英語は語が一番多いということらしのだけれど、中国語やドイツ語など他の外国語に比べると、日本語はかなり語が少ないと谷崎潤一郎も文章読本に書いていた。
   マドリードで、オリジナル、字幕の映画を上映するフィルモテカと呼ばれる文化庁の管轄の映画館は、建物自体も文化財的な映画館。スペインに来た当初は、 日本の名作映画などを上映した時には見に行ってたりした。月毎にプログラムが組まれて、今来月は、ゴヤ賞の作品や、スティーブン・フリアーズ、マリオ・モ ニチェッリ、マノエル・デ・オリヴェイラの映画を上映中。
 
FILMOTECA  シネ・ドレ 最寄り地下鉄駅アントン・マルティン 一般入場料2.50ユーロ。前売り券もあり。

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